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静岡県富士山世界遺産センター 企画展「千社札の中の富士山」を訪れて

伝統の「粋」を包み込む「逆さ富士」の建築空間

――静岡県富士山世界遺産センター 企画展「千社札の中の富士山」を訪れて

普段、住宅分譲の現場で現代的な空間づくりや職人の手仕事に向き合っている目線から見ても、今回の静岡県富士山世界遺産センターへの訪問は、建築と展示内容が絶妙な調和を見せる、極めて刺激的な体験となりました。



坂茂氏が仕掛けた「逆さ富士」と、左官の凄み

まず圧倒されるのは、2014年にプリツカー賞を受賞した坂茂氏による、世界遺産・富士山を「守る」「伝える」「交わる」「究める」ための壮大な建築デザインです。 駿河国一宮・富士山本宮浅間大社の鳥居に隣接する敷地に足を踏み入れると、木格子を精緻に組み上げた逆円錐状の「逆さ富士」の展示棟が、鮮烈な存在感を放ちながら迎え入れてくれます。



さらに、建築好きとして唸らされたのが、職人社秀平組の左官職人・挾土秀平氏が手がけた壁面です。顔料を一切使わず、すべて天然自然の土の風合いだけで仕上げられています。深いグレーから藤色へと至る無限のグラデーション、そして背景の潔い赤土のレイヤーは、まさに「富士の地層」そのもの。この本物の質感が、この建物での体験を一段と特別なものにしてくれます。



この建築の最もユニークな特徴の一つは、「逆さ富士」の内部をらせん状に歩きながら6つのゾーンを巡る構造にあります。壁面に投影される映像を眺めながら、全長193mのスロープを登っていくプロセスは、まるで空中を浮遊しながら海からの富士登山を疑似体験するかのよう。建築における「移動の体験(建築的プロムナード)」が、見事に富士山という文脈に昇華されています。



その心地よい浮遊感のなかで出会ったのが、今回の企画展「千社札の中の富士山」です。

江戸の昔、神社仏閣への参詣の証として大流行した「千社札(せんしゃふだ)」。展示されている木版画や資料を凝視すると、江戸っ子たちが限られた四角い制約(グリッド)の中に、見栄と意地、そして洒落や粋をこれでもかと盛り込んだ、極めて高度なグラフィックデザインであることに気づかされます。

江戸時代の終わりに生まれたこの交換会文化は、独特のデザインと技術を有し、江戸・東京を中心に現在まで連綿と受け継がれてきました。本展の主役である「お札博士」ことフレデリック・スタール氏の「九十九コレクション」からは、国境を越えて人々を魅了した千社札の圧倒的なエネルギーが伝わってきます。

私たちが日々手がける現代の住宅分譲においても、「限られた空間(敷地や間取り)の中に、いかに住まう人のこだわりや『粋』な遊び心を落とし込むか」は常に大きなテーマです。職人の高度な技術によって支えられた千社札の文化は、現代の空間づくりにも通じる、引き算の美学と職人技へのリスペクトに満ちていました。

畏れられ、崇拝され、古来より日本人にインスピレーションを与え続けてきた富士山。その壮大な自然と文化的価値を伝える「坂茂氏のダイナミックな建築」の内部で、江戸っ子たちのミニマムで濃厚な「千社札の粋」に触れる――

歴史、文化、自然、そして建築。さまざまな角度から富士山を紐解くこの施設だからこそ、伝統的な職人技の幸福なコラボレーションを肌で感じることができました。空間デザインに関わる人間として、多くのインスピレーションを持ち帰ることができる素晴らしい展覧会です。