
住宅分譲という「住まい」をつくる仕事に携わる身として、大分が誇る巨匠・磯崎新氏の代表作「アートプラザ(旧大分県立大分図書館)」を訪れた体験は、単なる建築探訪以上の、深く心に響く刺激に満ちたものでした。
今回の訪問で感じたこの建築の凄みと、展示から見えてきた磯崎デザインの本質を、私なりの視点で振り返ってみたいと思います。
まず圧倒されるのは、建物の外壁から大胆に突き出した梁の断面です。
普通ならきれいに隠してしまうはずの「切り口」をあえて見せるその姿に、不思議な躍動感に心を掴まれました。
そして、この雨に濡れた瞬間の写真は、コンクリートの表情をよりドラマチックに際立たせています。
長年にわたる雨風や太陽、大分という土地の空気がコンクリートの表面に「古色」を与え、水分を含んで色が濃くなった壁面と、光を反射する湿った表面が、より複雑な階調を生み出し、建物の彫刻的な美しさを一層引き立てています。
館内へ足を踏み入れると、素晴らしい空間が広がっていました。
特に「60'sホール」は、奥に向かって2段階にせり上がっていく床面と、それを見守るように架かる重厚な梁。
2階から3階へと突き抜ける吹き抜け空間には、頂部から間接光が降り注ぎ、時間の経過とともにその表情を刻々と変えていきます。
この空間が、1960年代前半の磯崎氏の前衛的な思想を象徴しているとのこと。
ここでは、かつて磯崎氏とも親交の深かった「ネオ・ダダ」の作家たちのエネルギッシュな作品が常設されており、建築と美術が互いに火花を散らすような、独特の緊張感に包まれる体験ができました。
今回の展覧会で特に興味深かったのは、磯崎氏の家具デザイン、とりわけ「モンロー・チェア」にまつわるエピソードです。
マリリン・モンローのボディラインをなぞり、理想の曲線を得るために自ら型板を切り抜いて「独自の曲線定規」まで作ってしまう。その徹底したこだわりに感銘を受けました。
この「モンロー・カーヴ」は、単なる椅子のデザインに留まらず、京都コンサートホールなどの建築設計にも繰り返し登場する、磯崎氏の代名詞的な造形です。
既製品の定規では満足できず、自らの哲学を仮託できる「手法」を自ら作り出す。
その姿勢こそが、時代を超えて愛される建築を生む原動力なのだと痛感させられます。
この建物は、かつての県立図書館としての役割を終えた後も、市民のための文化交流の場「アートプラザ」として再生され、息づいています。
空間のダイナミズム: 吹き抜けと光が生み出す、圧倒的な開放感。
幾何学の規律: 円筒や立方体といった明快な形状がもたらす、知的な構成。
歴史の積層: 60年代の前衛芸術の熱量を今に伝える、歴史的価値。
住宅分譲の現場においても、単にスペックを追うのではなく、そこに住まう人の感性を刺激するような「意思のあるデザイン」を込める重要性をあらためて認識しました。
磯崎新という巨匠がこの大分の地に残したメッセージは、これからの街づくりを考える私にとって、大きな指針となるものでした。
